【ACT③】ネガティブな気持ちを受け流す:アクセプタンス

アクセプタンス&コミットメント・セラピー
ハルハル
ハルハル

嫌な思考や感情から逃れるために,引きこもったり,ヤケ食いしたり,気晴らしをしたり,別のことを考えたりすることを,ACTでは「体験の回避」と呼ぶんでしたね。
前回は,体験の回避をしても,嫌な思考や感情はまた戻ってきてしまうばかりか,自分にとって大切な行動が妨げられてしまうことをワークを通じて学びました。

ミサキ
ミサキ

はい。そして,体験の回避をせずにアクセプタンスすることで,嫌な思考や感情をあるがままにして,大切な行動をできるチャンスを手にできることが分かりました。
でも,いきなり「アクセプタンスしろ」と言われても,どうやっていいかわかりません・・・。

ハルハル
ハルハル

それはそうですね。
では今日は,体験をアクセプタンスするための,具体的なエクササイズを実践してみましょう!

さあ,アクセプタンス&コミットメント・セラピーACTアクト)シリーズの第3回です。ACTは,嫌な思考や感情があっても,自分にとって大切な人やものに沿った行動ができるようになる(「心理的柔軟性」を高める)ことを目指すトレーニングでしたね。
今回の記事は,前回の記事(下リンク)とワンセットになっているので,可能な限り,以下の記事の内容を先に実践されることをお勧めします

それから,以下のまた別の記事は,ACTの全体像を大まかに解説した記事になります。
これをサクッと呼んでから本記事を読むと,内容が入ってきやすいかもしれません。

さて,今回は,心理的柔軟性を高めるための6つのスキルのひとつ(下図)である「アクセプタンス」のエクササイズを実践していきます。

アクセプタンスとは,体験の回避を手放すことをいいます注1)文献によってはアクセプタンスを,「ウィリングネス」あるいは「拡張」と呼ぶこともあります。前者は「感情・感覚を積極的に(ウィリングに)体験する」という意味,後者は「感情・感覚のためのスペースを心につくってやる」という意味が込められています。
体験の回避というのは,嫌な思考や感情から逃れるための行動のことでしたね。
つまり,アクセプタンスというのは,嫌な思考や感情から逃れようとせずに,それらを思う存分,体験しようとすることであるといえます。

では早速,体験をアクセプタンスするための,具体的なエクササイズをやってみましょう!注2)以下での参考文献:Harris, R. (2007). The Happiness Trap: Stop Struggling, Start Living. East Gosford: Exisle Publishing.(ハリス, R. 岩下 慶一(訳)(2015).幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない――マインドフルネスから生まれた心理療法ACT入門―― 筑摩書房)

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からだの感覚に注意を向けるエクササイズ

まずはアクセプタンスのための準備段階のエクササイズです
アクセプタンスでは,感情に注意を向けます。
さて,ここで,注意を向ける」ことと,「考える」ことの違いはわかりますか?
もしわからなければ,以下のエクササイズをやってみましょう!

やってみよう

これから,からだのどこかに注意を向けるエクササイズを,10個行ってもらいます。

  1. に10秒間注意を向けましょう。
  2. 膝の位置に10秒間注意を向けましょう。
  3. 背骨がどの程度曲がっているかに,10秒間注意を向けましょう。
  4. 呼吸のリズムやスピード,深さに10秒間注意を向けましょう。
  5. 腕の位置に10秒間注意を向けましょう。
  6. 首と肩のあたりに何を感じるか10秒間注意を向けましょう。
  7. からだの中で,どこが温かく,どこが冷たいかに10秒間注意を向けましょう。
  8. 肌の表面の空気に10秒間注意を向けましょう。
  9. 頭からつま先までをスキャンするように,からだのどこかに固さや緊張,痛み,不快感がないか10秒間注意を向けましょう。
  10. 頭からつま先までをスキャンするように,からだんどこかに気持ちのいい,心地よい感覚があるか10秒間注意を向けましょう。
ミサキ
ミサキ

感覚に注意を向けようとしたんですが,「なんでこんなエクササイズをしているんだろう」とか考えてしまって,集中できませんでした。

ハルハル
ハルハル

それは,思考の働きですね。
エクササイズ中,思考が1秒でも途切れた瞬間はなかったでしたか?

ミサキ
ミサキ

ありました!
その時は,感覚に注意を向けることができていました

ハルハル
ハルハル

それが,思考することと,注意を向けることの違いですね。
この違いに気づくことがこのエクササイズの目的なので,十分達成できていますね。

「注意を向ける」ことが,「考える」こととは違うんだということを理解できたでしょうか?
もし違いに気づかなかったら,もう一度エクササイズをやってみましょう。
このエクササイズの目的は,思考をしなくなることではなく,思考と注意の違いに気づくことなので,心が独り言を始めても大丈夫です(「思考をしない」ことは不可能でしたね)。

思考と注意の違いに気づいたら,以下の2つのことを覚えておいてください。

アクセプタンスでは「考える」のではなく「注意を向ける」

感情に注意を向けることによって,「思考にベールをかけられた感情」ではない,ありのままの感情を体験できます。
もし心が考え事を始めたら,次に,心が考え事を始めたな」ということに気づいて,そっと注意を向けなおします

感情はからだの感覚として体験される

たとえば,「恥ずかしい」ときは,顔が熱くなったり,逆に額がヒヤッとしたり,のどが渇いたりおなかのあたりがきりきり痛んだりすることがあります。
これは,感情が,からだの感覚として現れることの証拠です。
ですので,これから先のエクササイズでも,感情をアクセプタンスするために,からだの感覚に注意を向けていきます。

アクセプタンスの基本エクササイズ

さて,準備が整ったところで,アクセプタンスの基本を体験してみましょう
このエクササイズがすべての基本なので,「基本エクササイズ」と呼ぶことにします。
アクセプタンスは,「1. 観察する」「(2. 息を吹き込む)」「(3. スペースを作る)」「4. 存在を認める」という4段階からなっています。
このうち,2段階目と3段階目は必須ではなく,1段階目と4段階目こそがアクセプタンスに不可欠な要素です。
ただ,2段階目と3段階目があった方が,アクセプタンスしやすいという方も多いため,載せておきます。
では,内容を見ていきましょう!

1. 自分の体の中の感覚を観察する

やってみよう

数秒かけて頭の上からつま先まで,からだをスキャンするように観察してみましょう
すると,からだのどこかに,いくつか不快な感覚があるかと思います。
たとえば,のどが詰まったような感覚,胃が締め付けられる感じ,涙が出そうな感覚など・・・。

その中で,一番不快な感覚に注意を向けてみましょう
科学者になったつもりで,念入りに観察してみます。
どこで始まってどこで終わっているのか,感覚の輪郭を描くとしたらどんな形か,体の表面か内部か両方かどこにあるか,もっとも強く感じるところや弱く感じるところはどこか,中心と端の部分では感じ方がちがうか,脈拍や振動をともなっているか,重いか軽いか,動いているか止まっているか,温かいか冷たいか,など・・・。

(2. 感覚のまわりに息を吹き込む)

やってみよう

感覚の内部や,そのまわりに息を吹き込んでみましょう。
息を吐くときは肺をからっぽにして,何回か深い呼吸をしてみます。
息が感覚の内部やまわりに流れ込んでいくのをイメージしましょう。

(3. 感覚のためのスペースをつくる)

やってみよう

息が流れ込んでいくことで,感覚の周りにスペースができていくことをイメージしましょう
スペースがあれば,感覚は自由に動き回ることができます。
感覚が大きくなるようであれば,さらに大きなスペースを作りましょう。

4. 感覚の存在を認める

やってみよう

感覚が自分の中にあるのを,あるがままにしておきます
もし,思考が何かコメントしてきたり,感覚を排除したい(体験の回避をしたい)衝動が出てきたら,それらには従わず,思考や衝動の存在を認めて,そのままにしておきましょう

5. 1~4を繰り返す

一つの感覚に対するエクササイズが終わったら,別の感覚に対してもエクササイズをやってみましょう
いろんな場面で,何回もエクササイズを続けることで,アクセプタンスが上手くなっていきます(前回の記事の例でいうと,底なし沼で浮くのが上手くなります)。
また,最初は時間がかかるかもしれませんが,慣れてくると,数秒で出来るようになってきます。

嫌な体験を思い出してアクセプタンスしてみる

さて,上の基本エクササイズを,あなたはどんな状態で行ったでしょうか?
もし,嫌な思考や感情がない状態で行ったならば,今度は,それらを思い浮かべながら行ってみましょう注3)日常レベルの苦痛に対して行ってください。PTSDなどのトラウマに対しては,専門家に相談し,協力を仰いでください。

ミサキ
ミサキ

わざわざ嫌なことを思い浮かべないといけないんですか・・・?

ハルハル
ハルハル

ミサキさんが嫌がるのも無理はありませんが,「わざわざ進んでやってみる」ということが重要なんです。
あえて嫌な思考や感情を体験することで,それらに対する恐怖心から体験の回避を取ってしまうことが劇的に少なくなるんですよ。

ミサキ
ミサキ

そうなんですね・・・。
頑張ってやってみます!

やってみよう

あなたの人生を振り返り,いくつか嫌な思い出について考えてみてください
何らかの嫌な感情が見つかったら,上の基本エクササイズの1~4を実施してみましょう。

このとき,感情が変化することを望むのは間違いです。
感情はいつかはなくなりますが,あなたの望むタイミングでなくなるとは限りません
しゃっくりのような感じで,気が付いたらなくなっているものです。

すぐに感情がなくならなくても,感情をアクセプタンスすることができたならば,あなたの大切なものに沿った行動を起こすチャンスができます!

独り言エクササイズ

アクセプタンスと思考することは違うということはお話ししました。
しかし,思考をうまく使えば,アクセプタンスの助けにすることはできます

やってみよう

アクセプタンスをしにくいとき,口に出すか心の中で,次のような独り言を言ってみると,助けになるかもしれません。

  • この感情は好きではないけど,居場所は作ってあげよう
  • この感覚は嫌だけど,アクセプタンスしよう。
  • 私は〇〇という感覚を持っている。
  • 私はこの感情が好きじゃない。いらない。認めたくない。でもあえて,ここでアクセプタンスしてみよう。

視覚化エクササイズ

イメージが得意な人は,基本エクササイズの段階1で,イメージを生かした方法を取り入れてみるのも有効かもしれません。

やってみよう

最も不快な感覚を見つけたら,その感覚が,物体であるかのようにイメージしてみましょう。
その物体はどんな様子ですか?

どのくらいの大きさで,どんな形か,液体か固体か気体か,透明か不透明か,何色か,色は変化しているか,温度はどのくらいか,軽いか重いか,そもそも重さはあるか,表面の手触りはどうか,ざらざらかすべすべか,濡れているか乾いているか,べたべたかとげとげか,熱いか冷たいか,音はあるか,振動しているか,止まっているか動いているか,など・・・。

続いて,通常通り段階2以降をおこないましょう。

空と雲エクササイズ

次は,ACTが大好きな,たとえ話を用いたエクササイズです注4)「観察する自己」のエクササイズとして用いられることが多いものですが,アクセプタンスのエクササイズとしても使えるため,ここで紹介しました。

やってみよう

次のことをイメージしてみてください。

あなたは空で,思考や感情は,流れては消えていく雲です
空であるあなたからすれば,雲である思考や感情は,あなたの一部です。
天気が悪くなれば,雲は雨を降らせたり,雷を轟かせたりします。
しかし,「雨」や「雷」と「あなた」は同じではありません
あなたは空であり,雨や曇り,晴れなど,全ての天気を持っています。
天気がうつろい,また戻っていく様を眺めるように,自分の思考や感情を眺めてみましょう

どうですか?
自分が空で,思考や感情が流れては消えていく雲だって考えたら,アクセプタンスがやりやすくなるかもしれません。

衝動の波をサーフィンするエクササイズ

嫌な思考や感情が強いとき,今すぐ体験の回避をしたい衝動がわくかもしれません
たとえば,怒りを感じたときなんかは,すぐに怒鳴り散らしたくなるかもしれません。
体験の回避とは関係のない衝動でも,禁煙中にタバコを吸いたくなったり,ギャンブルをやめられなくなったりする衝動などは,生活に悪い影響をもたらしてしまうでしょう。

衝動に対してもアクセプタンスは有効です
衝動は波のように,小さいところから始まって徐々に大きくなっていき,ピークを過ぎるとまた小さくなっていきます
波は消えることはありませんが,波に乗ることはできます。
アクセプタンスを使って,衝動の波でサーフィンするのです。

やってみよう
  1. 基本エクササイズ段階1の要領で,衝動を観察する。
  2. 私は〇〇や▲▲といった衝動を持っている」と認める。
  3. 基本エクササイズ段階2段階3の要領で,衝動に息を吹き込みスペースを作る
  4. 衝動の波が生まれ,高まり,崩れていく様を観察する。
  5. 衝動に従ったりコントロールする代わりに,自分にとって大切な行動を起こす

おわりに:ほかのスキルの上手さとつながっている

さて,いくつかアクセプタンスのエクササイズを紹介しました。
基本エクササイズを中心に,ほかの自分に合うエクササイズをカスタマイズしていけばいいかと思います。

最後にひとつ覚えておいてほしいことは,今なかなかアクセプタンスができなくてもあせる必要はないということです。
というのも,アクセプタンスの上手さは,ACTのほかのスキルを上達するにしたがって向上していくからです。

ACTでは,アクセプタンスのほかに5つのスキルをトレーニングするんでしたね。
実は,ACTの6つのスキルは,互いに深い関係があり,切り離せるものではありません
ですので,今アクセプタンスがうまくできなくても,ほかのスキルを練習しているうちにアクセプタンスもできるようになるものです。
これは,ほかのスキルに関してもいえます。
なので,くれぐれも心配しないでください!

では,次回は,体験の回避を強めてしまうという「認知的フュージョン」について解説した後,余裕があれば,認知的フュージョンを弱める「脱フュージョン」についても解説したいと思います。
では,ごきげんよう!

  • アクセプタンスは「考える」のではなく「注意を向ける」心の働きを利用する
  • 感情はからだの感覚として現れるので,感覚をターゲットにアクセプタンスを行う
  • 基本エクササイズを軸に,自分に合うエクササイズをカスタマイズして実践しよう!
  • (しつこいようですが)嫌な感情をなくすことを目的にアクセプタンスするのではなく,価値ある行動を起こすためにアクセプタンスする!
  • すぐにアクセプタンスができなくても,ACTのスキルを実践するうちにできてくるので,あせらない!

※すべての心理学理論には個人差があります。
※本記事におけるアドバイスは,自己責任でご実践ください。

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