【ACT②】嫌な考えや気分からは逃れられるのか?:体験の回避

アクセプタンス&コミットメント・セラピー

※前回までのおはなし

ミサキ
ミサキ

最近部活の友達と喧嘩しちゃって・・・。
後から謝りに行こうと思ったんですけど,もう許さないって拒絶されるのが怖くて,引きこもってしまって・・・。
家にいるときは,不安を忘れるためにヤケ食いしたり,気晴らしにテレビを見てみたり,何もすることがないときはひたすら,友達のことを考えないように別の楽しいことを考えるようにしてました。

ハルハル
ハルハル

不安を消すために,とっても多くの方法を頑張って試してきたんですね・・・。
では,そのような方法をとってみて,実際に不安や恐怖から逃れられましたか?

ミサキ
ミサキ

やってみた直後は不安はなくなったんですが,しばらくすると余計に不安感・恐怖感に襲われました・・・
どうしたら,不安や恐怖を解決して,友達と仲直りしに行けるんでしょうか?

こんにちは!ハルハルです。
前回は,アクセプタンス&コミットメント・セラピーACTアクト)について大枠をお話ししました。
ACTは,嫌な思考や感情があっても,自分にとって大切な人やものに沿った行動ができるようになる(「心理的柔軟性」を高める)ためのトレーニングでしたね。
以下は前回の記事ですので,ご参考までにどうぞ。

さて,「アクセプタンス」は,心理的柔軟性を高めるための6つのスキルのひとつでしたね(下図)。
今回は,アクセプタンスができていない状態である「体験の回避」についてご説明します注1)参考:Luoma, J., Hayes, S. C., & Walser, R. (2007). Learning ACT. Oakland: New Harbinger Publications.(ルオマ, J. B.・ヘイズ, S. C.・ウォルサー, R. D. 熊野 宏昭・高橋 史・武藤 崇(監訳)(2009).ACTをまなぶ 星和書店)
なぜ体験の回避から解説をするかというと,体験の回避についてよく知ることで,アクセプタンスが上手くできるようになるからです。
そして次回,具体的な「アクセプタンス」の方法について解説することにします。

スポンサーリンク

誰もが体験の回避をしてしまう

さて,ミサキさんは,不安や恐怖から逃れるために,「引きこもる」,「ヤケ食いする」,「気晴らしにテレビを見る」,「別の楽しい考えでネガティブ感情を打ち消す」という行動をしていましたね。
このような,ネガティブな思考や感情から逃れようとする行動は,ACTでは「体験の回避」とよばれます。

あなたはどうでしょう?

ミサキさんだけでなく,誰もが体験の回避をしがちなものです
そこで,次の簡単な質問に答えてみてください。

ちなみに,この作業は「創造的絶望注2)英語では,「クリエイティブ・ホープレスネス」といいます。かっこいい。」とよばれる作業のひとつで,ACTの効果を高めるために重要なものです。
簡単な作業なので,一度取り組んでみましょう。

やってみよう

あなたは,これまでにどんな体験の回避をしたことがありますか?
たとえば,「勉強・仕事がしんどい」という気持ちから逃れるためにゴロゴロしてしまったり,「異性と目を合わせるのが恥ずかしい」という気持ちを避けるために目を逸らしてしまったり,「落ち着かない気持ち」を和らげるために貧乏ゆすりをしたり・・・。
いくつか頭で思い浮かべるか,時間があれば,メモやスマホ,PC上で書き出してみましょう。
ワークが終わったら,次を読み進めてください。

どうでしたか?意識して考えてみると,いくつか思い当たる節があったのではないでしょうか。

体験の回避をすることは,人間として自然なことです。
実際,体に腫瘍があれば,手術をして取り除こうとしたり,機械に故障があれば,パーツを取り替えたりしますよね。
みなさんは,心に関しても同じように,「ネガティブなものはなくそう」とされるわけで,体験の回避を行うこと自体は,人間である以上当然だともいえるでしょう。

しかし,体や機械という「目に見えるモノ」に対して効果的な方法は,果たして,「心」という「目に見えないモノ」に対しても有効なのでしょうか?

体験の回避はあなたの役に立つか?

ACTでは,「頭で考えるよりも,経験したことから学ぶ」ということを大事にします。
なぜならば,経験で学ぶ方が,柔軟な行動を起こせるからです。
今回も,体験の回避があなたの役に立っているかどうか,あなたの経験に聞いてみましょう。

体験の回避をすることで嫌な思考や気分を失くせたか?

まず,次の質問に答えてみてください。

やってみよう

先ほど思い出してもらった,あなたが行ってきた体験の回避についての質問です。
その体験の回避は実際に効果を発揮し,嫌な思考や気分は消えてなくなりましたか?
体験の回避を行った直後だけでなく,そのあと長い期間,嫌な思考や感情は現れなかったでしょうか?
思い出してイメージしてみるか,先ほど体験の回避を書いてリストアップした人は,嫌な気分が消えたか消えなかったか,横に書いてみましょう。
ワークが終わったら,次を読み進めてください。

多くの人は,体験の回避をすることで,短期的には嫌な思考や気分を消すことができても,しばらくすると,余計に嫌な思考や気分が戻ってきてしまう体験をしています。

なぜ嫌な思考や感情を消そうとしてもなかなか消えないかというと,消そうとしている思考や感情のことを常に意識しなければいけないからです。
たとえば,「不安になってはいけない,不安になってはいけない・・・。」と常に心にとめている人は,その時点で不安のことを考えて,余計不安になってしまいます。

このような状態は,よく底なし沼にたとえられます。
底なし沼は,一度ズボッと足がはまってしまうと,足が抜けず,もがけばもがくほど,体が沈んで行ってしまいます。
ネガティブな思考や感情も同じように,そこから逃れようともがけばもがくほど,思考や感情の沼から抜け出せなくなってしまいます。

体験の回避をすることで価値ある行動ができたか?

それでは,もう一つ,以下の体験の回避に関する質問について考えてみてください。

やってみよう

再び,先ほど思い出してもらった,あなたが行ってきた体験の回避についての質問です。
その体験の回避を行ったことで,あなたにとって大切な物事注3)ACTでは「価値」といいましたね。に沿った行動注4)ACTでは「コミットメント」といいましたね。ができましたか?
思い出してイメージしてみるか,先ほど体験の回避を書いてリストアップした人は,行動ができたかできなかったか,横に書いてみましょう。
ワークが終わったら,次を読み進めてください。

ミサキ
ミサキ

これって,「大切な物事に沿った行動はできなかった」って言わないと話が進まないやつだよね・・・。
めんどくさいから「できなかった」ってことにして,次に進もう・・・。

ハルハル
ハルハル

ミサキさん,めんどくさいから「できなかった」ってことにして,次に進もうって考えてませんか?

ミサキ
ミサキ

!え?なんのことですか~?

ハルハル
ハルハル

めんどくさいのはわかりますが,ACTで一番大切なのは「経験から学ぶこと」です。
もし,ミサキさん自身の経験から,「体験の回避によって大切な物事に沿った行動ができた」と感じるのならば,経験に嘘をつく必要はありません
ただ,「ワークを飛ばす」という行動をミサキさんが行ったのはどうしてなのか,少し検討してみてもいいかもしれません。

ミサキ
ミサキ

ワークを飛ばしたのは,面倒くさかったから・・・。
あ!私にとってワークを飛ばす行動は,「面倒くささから逃れる体験の回避」になってる・・・!
そして,この体験の回避をしたせいで,「ACTをしっかり体験する」っていう大切な物事ができなくなっちゃってるんだ・・・!

上のやり取りでもあったように,経験に嘘をつく必要はありません
経験の代わりに,私が言っている知識だけを頭で受け入れてACTを実践しても,やはり柔軟に,大切な物事に沿った行動を起こすことができません

ただ,経験をかえりみた結果,やはり多くの方が,「体験の回避をすると,大切な物事に沿った行動ができなかった」と感じられるようです。

なぜ体験の回避によって大切な物事に沿った行動ができなくなるかというと,大切な物事を実行することには,ネガティブな感情が伴うことが多いからです。
たとえば,大切な試合の前日は「緊張」したり,好きな人に告白する瞬間は「不安」になったり,ACTのワークをするときは「めんどくさく」なったり(笑)します。
このようなネガティブ感情から体験の回避をすれば,緊張や不安やめんどくささから一時的に逃れられますが,それと引き換えに,試合には出れず,好きな人とは親密になれず,ACTを実践することもできないわけです。

このような体験の回避の特徴は,「モンスターとの綱引き」にたとえられます(ACTはたとえ話が好きです)。
あなたのネガティブな思考や感情がモンスターだと思ってください。
あなたは,モンスターと綱引きをしています。
あなたが勝てば,モンスターは消滅します。
一生懸命あなたはロープを引っ張っていますが,モンスターは手ごわく,永遠に勝てる見込みはなさそうです(ネガティブ思考や感情は消せないことは上で言いましたね)。
さらにあなたは,モンスターに勝てないだけでなく,ずっとロープを握っている両手を使えばできるであろう,ほかの様々な価値ある物事ができないでいるのです。

体験の回避を手放すとどうなるか?

さて,ここまでで,体験の回避が役に立たないことを体験してもらうためのワークを進めてきました。
ここまでしっかりとワークをしてもらったのは,体験の回避が役に立たないことを経験から実感することで,体験の回避の力が弱くなるからです(なので,ワークを飛ばしてここまで読んだ人は,今一度上に戻ってワークをやってみましょう)。
実際に,ここまでワークをしてもらって,体験の回避としてリストアップしてもらったほとんどの方法は,ネガティブな思考・感情をコントロールすることや,価値ある行動をとることに役立たないことを実感してもらったと思います。

さて,どんな方法でもうまくいかなくても,たった一つだけ残された方法があります。
それは,「すべての方法を捨てる」という方法です。
この,体験の回避として行っていた方法を捨てることを,「アクセプタンス」といいます
では,アクセプタンスをすることで,あなたには何が起きるのでしょうか?

嫌な思考や感情は自然なままでとどまる

体験の回避をすれば,ネガティブな思考や感情は,余計に大きくなって戻ってくるのでしたね。
アクセプタンスをすれば,ネガティブな思考や感情は,ありのままであなたの中にとどまります
あなたは,ネガティブな思考や感情を好きになるわけでもありません。
あくまでありのままです。

でも,体験の回避をした時のように,ネガティブな思考や感情が余計に大きくなることはありません
また,アクセプタンスをしたまま過ごしていれば,ネガティブな思考や感情は気が付けばどこかに行ってしまうでしょう。

上で話した,底なし沼の話を覚えていますか?
もがけばもがくほど,思考や感情の沼に沈んでいくんでしたね。
じつは,底なし沼に対処する唯一の方法は,「暴れずに,足を表面に出して浮く」ことです。
底なし沼の比重は,人間の方が軽いので,実は何もしなければふつう,人間は浮くのです。
これは感情の沼にはまってしまったときにも,同じことがいえます。
嫌な思考や感情にとらわれそうになった時には,それらをそのままにしておけばいいのです
もちろん,「そのままにしておく」ことを実際にやってみるのは最初は大変です。
だからこそ,ACTのエクササイズを通して,「底なし沼に浮かぶ練習」をするのです。

※とはいえ,現実場面で底なし沼にはまった場合は,そこから脱出にこぎつけないといけません。
Youtubeに底なし沼(流砂)から脱出する男性の動画があったので,今回の復習がてら,どうぞ。
「何しとんねん」って感じで面白いです(マネしないでください)。

流砂から脱出する方法 | サバイバルゲーム (ディスカバリーチャンネル)

体験の回避のエネルギーを価値ある行動に使える

ほかにも,体験の回避をすれば,大切な物事に沿った行動ができなくなってしまうんでしたね。
アクセプタンスをすれば,嫌な思考や感情を体験することで,あなたにとって価値ある行動を起こすチャンスができます

実は,この価値ある行動を起こす(コミットメントする)ということがACTの真の目的であり,アクセプタンスはその手段でしかありません
アクセプタンスができるようになることで,あなたは,自分で自分の人生の可能性を切り開く権利を得ることができるのです!

また上の話に戻りますが,モンスターとの綱引きの話を覚えていますか?
思考や感情と綱引き状態になることで,両手が使えなくなり,大切な物事ができなくなってしまうんでしたね。
ここで,モンスターに対処する最もいい方法は,なんでしょうか?
それは,「ロープを手放すこと」です。
ロープを手放すことは,モンスターとの戦いをやめることです。
モンスターである思考や感情は依然そこにいますが,あなたは,もうモンスターに邪魔されずに,いままでロープを握っていた両手で,自由に未来をつかむことができるのです。

バランスよく

さて,ここまで体験の回避についてネガティブな話しかしていないので,「体験の回避は絶対悪だ」「絶対に体験の回避をしてはいけない」と思った方もおられるかもしれません。

しかし,体験の回避は,バランスよく使えば,それほど害ではありません
時には嫌な思考や感情から逃げたくなる時もあるでしょう。
「今回は体験の回避をしよう」と考えたなら,それでもいいと思います。
でも,体験の回避を過剰に使いすぎて,ネガティブな気持ちの沼に沈んでしまったり,大切なことが何もできなくなっては,問題です

大切なのは,自分の体験の回避を自覚して,ネガティブ思考や感情の言いなりになることなく,「体験の回避をするか,しないか」を選択できるようになることです!

次回予告:どうやってアクセプタンスするか?

ミサキ
ミサキ

体験を回避せずにアクセプタンスすることで,嫌な思考や感情をあるがままにして,大事な行動をできるチャンスを手にできることが分かりました。
でも,いきなり「アクセプタンスしろ」と言われても,どうやっていいかわかりません・・・。

ハルハル
ハルハル

それはもっともですね。
では,これから具体的な方法をお伝えします・・・と言いたいところなのですが,長くなってしまったのでそれは次回のお楽しみにしましょう。

次回は,アクセプタンスのためのテクニックをご紹介します。
また,ご自身にあったテクニックを選んでいただけるよう,いくつかの種類を紹介していこうと思っています。
乞うご期待!

  • 嫌な思考や感情から逃れようとすることを「体験の回避」という
  • 体験の回避をするのは自然なことで,だれでもやっていること
  • 体験の回避をしてもネガティブな思考や感情はなくならず,むしろ大きくなって戻ってくる
  • 体験の回避をすることで,自分によって大切な物事から遠ざかってしまう
  • 体験の回避を手放すことを「アクセプタンス」という
  • アクセプタンスをすることで,ネガティブな思考や感情が大きくならないうえ,大事な物事を実行するチャンスが得られる
  • ネガティブ感情の言いなりになっていないなら,体験の回避を「選択」してもいい

※すべての心理学理論には個人差があります。
※本記事におけるアドバイスは,自己責任でご実践ください。

注釈   [ + ]

コメント

タイトルとURLをコピーしました