専門家と市民は「リスク」をどう捉える?違いを心理学的に解説!

リスクマネジメント
専門家
専門家

今回の件を過剰に恐れる必要はありません!
これこれこうした客観的なデータからも,危険性は高くないことがわかっています!

市民
市民

うそだ!
酷い症状が出たり,亡くなったりした方をテレビでも見たし,危ないに決まってる!

専門家
専門家

この説明でわからないのだったら,何を言ってもあなたはわからないでしょう。
もう何も言うことはありません。

市民
市民

ほうら,専門家ってみんな上から目線だから信用できないんだよな・・・。

ある事柄のリスクについて,専門家と市民がコミュニケーションを試みるとき,あまりうまくいかないことが多いです。
これは,どちらかが悪いわけではなく,専門家と市民が「リスク」を異なった見方からとらえているためです注1)以下参考:中谷内一也 (2019). 信頼の心理学 神戸学院大学心理学紀要1, 89-103.

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専門家と市民の「リスク」の捉え方のちがい

専門家は「リスクの高さ」をどう考えるか

専門家は,「リスクの高さ」を,「事態が起きる可能性」と「事態が起きた場合の深刻さ」の2つを手掛かりに,統計的・科学的に推定します

事態が起きる可能性

というのは,たとえば,「××ウイルスの重症化率は◯%である」ということや, 「◯ミリシーベルト以上の放射線被ばくで,◯%の人に身体症状が現れる」ということや, 「××ワクチンの接種による副作用出現率は◯%である」ということなどです。

事態が起きた場合の深刻さ

というのは,たとえば,「仮に××ウイルスに感染したり,放射線被ばくを受けたり,あるいは××ワクチンの副作用が出現したりすると,どの程度重症化するのか」ということなどです。

市民は「リスクの高さ」をどう考えるか

一方で,専門家のリスク判断とは異なり,ふつうの市民は「リスクの高さ」を,「恐ろしさ」と「未知性」の2つを手掛かりに,主観的に判断します
主観的な判断なので,科学的に正確なわけではありません

恐ろしさ

というのは,対象が「致死的である」「広範囲で惨事をもたらす」「コントロールできない」などといった「イメージです。
あくまで本人の主観的なイメージなので,実際はそうでないことや,偏った情報に基づいている場合もあります。

たとえば,「××ワクチンで亡くなった人がテレビで報じられていた(致死的」「放射線の影響で住めなくなった町がある(広範囲の惨事」「マスクをしても××ウイルスを防げない(コントロールできない」などは恐ろしさです。

未知性

というのは,「観察できない」「なじみがない」「科学的にわかっていない」などの特徴を指しています。
たとえば,「放射線は目に見えない(観察できない」「××ウイルスは新型のウイルスだ(なじみがない」「××ウイルスのワクチンはまだ完成していない(科学的にわかっていない」などは未知性です。

この恐ろしさと未知性が高いほど,ヒトはあるものの「リスクが高い」と思うようになります
××ウイルスはマスクをしても防げないし,テレビではたくさんの死者も報じられている!(恐ろしさ高)しかも,新型のウイルスで,まだワクチンもできていない!(未知性高」という感じですね。
専門家でさえも,自分の専門分野については「可能性」と「深刻さ」に基づいた,科学的なリスクの捉え方をしますが,自分の専門分野以外については「恐ろしさ」や「未知性」に基づいて,主観的にリスクを捉えがちです。

信頼を得られない専門家

「可能性」と「深刻さ」に基づいた専門家のリスク判断と,「恐ろしさ」と「未知性」に基づいた市民のリスク判断は,一致していることもあれば,全く異なることもあります
全く異なる場合には,市民と専門家のコミュニケーションはうまくいかず,お互いに「どうしてわかってくれないんだ」という感じになってしまいます

信頼のベースは,同じ方向を向いていること

コミュニケーションの基本は信頼です。
信頼を得るためには,もちろん専門知識人間性も大切ですが,それ以前に大切なこととして,「相手と自分が同じ方向を向いていること」が重要であることがわかってきています。
この同じ方向を向いていることを,「主要価値類似性」といいます。

DJポリス

主要価値類似性の例として,渋谷のDJポリスを知っていますか?
2013年のワールドカップでサッカー日本代表の出場が決定したとき,渋谷のスクランブル交差点のサポーターたちは湧きに湧き,渋谷は一時大混乱に陥りかけました。
そのようなとき,「DJポリス」とよばれる警察官たちは,「私たちも日本がワールドカップに行けて本当にうれしいんです。そんな日に私たちを怒らせないでください」と言いながらサポーターを誘導しました。
結果として,渋谷の混乱は収まり,DJポリスはサポーターたちをうまく誘導していきました。

もしDJポリスが,「何してるんだ,まっすぐ進みなさい」というようなことだけを言っていては,混乱は収まらなかったでしょう。
うまく誘導できたのは,DJポリスとサポーターたちが,「私たちは日本を応援している仲間だ」という意味で同じ方向を向いていた,つまり高い主要価値類似性を持っていたからだと考えられます。

専門家と市民は違う方向を向いてリスクを見ている

しかしながら,先にも説明したとおり,専門家と市民は全く違う方向からリスクを見ています
だからたとえば,専門家からすれば「科学的に悲惨な結果が出る可能性は極めて低いもの」でも,市民からすれば「こんなによくわからない恐ろしいもの」というとらえ方になります
主要価値類似性が低い状態です。
結果的に,お互いに「こいつは何を考えているんだ」という感じになって,信頼が成り立たず,コミュニケーションもうまくいかなくなってしまいます

信頼あるコミュニケーションはどうやってできる?

では,どうやってお互いに上手く意思疎通を図ればよいのでしょうか?

相手のリスクの見方を理解する

1つ目に,専門家は市民の見方を,市民は専門家の見方を大雑把にでも理解すれば,お互いに何を考えているか理解が進むでしょう
コミュニケーションも取りやすくなるはずです。
そのためには,この記事で紹介した,お互いのリスクの捉え方を頭に入れておくことです。

自分の発言が相手にどう影響するか考える

2つ目は,自分の発言が相手にどんな影響を与えるのか?」と考えてみることです
専門家からすれば,「もし自分が市民に『あなたに何がわかるのですか』と発言した場合,相手は自分を信頼するだろうか」と考えることができます。
市民からすれば,「もし自分が専門家に『そんなの嘘に決まってる』と発言した場合,相手はためになる情報をくれる気になるだろうか」と考えることができます。

さいごに

さて,専門家の人も市民の人も,お互いにどうしてコミュニケーションが取れないのか,より良いコミュニケーションを取るにはどうしたらいいか,何かのヒントになりましたでしょうか?
専門家と市民は敵同士ではなく,困難を乗り越えていく仲間です!
助け合っていきましょう。

  • 専門家は,リスクを「事態が起きる可能性」と「事態が起きた場合の深刻さ」によって捉えている
  • 市民は,リスクを「恐ろしさ」と「未知性」によって捉えている
  • 信頼されるためには,同じ方向を向いているという「主要価値類似性」が大事
  • 専門家と市民は違う方向を向いてリスクを見ているので信頼が築かれにくい
  • お互いに信頼あるコミュニケーションを行うために,相手のリスクの見方を理解して,自分の発言の影響に気を配っていこう!

※すべての心理学理論には個人差があります。
※本記事におけるアドバイスは,自己責任でご実践ください。

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